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タンチョウの保護に関する提言ploposal


過去と現在と未来―保護の提言―

タンチョウ過去

タンチョウは,18世紀半ばまでひろく北海道全域の湿地で繁殖し,越冬のため関東を含む東日本へ一部が渡っていたと思われます。しかし,本州でその捕獲が厳しく制限されていたのに,北海道(松前藩)では狩猟鳥で,塩漬けにして本州などへ輸出していました。

さらに,江戸幕府が倒れ,捕獲規制もなくなり,明治の中期まで狩猟が続けられました。そのうえ,北海道開拓により,道南や道央の湿原は急速に水田などに変えられ,ツルは繁殖地を失っていきました。この狩猟と生息地の消失という二つの働きで,タンチョウは19世紀の終わりから20世紀の前半にかけて,絶滅したのではないかといわれるほど影を潜めてしまったのです。

  しかし,幸いなことに,気候が寒冷のため人が利用できなかった道東の湿原に,数十羽のタンチョウが生き残っていました。そこで,発見された1920年代から1950頃まで,人はいろいろ保護の手を打ったのですが,それでも数は増えませんでした。
   ところが,1950年ころ阿寒の農家の人が,飢えているツルに自家用のトウモロコシを分け与える活動を始めました。天候条件も加わって,餌付けが成功し,その後,官庁も餌を用意するなどして,冬の餌不足は解消されました。結果として数は次第に増加したのです。
ただ,1960年代から1970年代半ばにかけて,増加が頭打ちになった時期があります。この時期,全体の1割にも当たるタンチョウが,電線に衝突して死んだのです。

そこで,電線に目立つ標識を付けたり,ツルを脅かさない保護策をとったりして,事故減らしにつとめました。これにより,1970年代半ばから,タンチョウは現在まで増加の一途をたどり,2016年1月には,野生のツルだけで1,850羽を数えることになりました。

タンチョウの現在

では,タンチョウは千羽鶴になりましたし,まだ増え続けていますから,もう安心してよいのでしょうか。つまり,これまで通りのやり方で問題はないのでしょうか。

確かに,すぐに絶滅してしまうような危機は,ひとまず脱しました。が,さまざまな,しかも難しい問題を抱えているのです。ごく簡単に示すと,次のようになります。
 

 

湿地の消失:タンチョウは低層湿原(*)で巣を作りますから,低層湿地はタンチョウにとって欠かせない環境ですが,依然として,農地開発,道路造成,新規事業地造成などで湿地が消えています。

繁殖地の悪化:湿地が完全に消えないまでも,周辺からの水の供給が変化して洪水が起きたり,餌の様子が変わったり,人が近くに住み危険が増したりしています。

高密度化:湿地が減って,反対に羽数が増えていますから,適地を求めて繁殖番いの高密度化が進んでいます。それにより,繁殖の成功度合いが低下する可能性があります。

集中化:羽数は増えたのに越冬適地は限られるため,特に特定の給餌場へ集中しています。そのため,伝染性の病気とか,汚染物質などの集団摂取で,大きなダメージを受ける可能性が高くなっています。

多様性の欠如:ボトルネック効果(**)で,日本のタンチョウの遺伝的多様性(***)は小さいことがわかっています。そのため,上記のような疾患に対し抵抗性が低いかもしれないという,潜在的な弱さを抱えています。

農業への加害:農作物への加害や畜舎への接近・侵入などにより,地域産業への影響と,地域住民のタンチョウへの嫌悪感が生じています。

衝突事故:電線衝突は依然として毎年起き,列車・自動車などとの衝突事故も増加傾向にあります。

農薬・重金属汚染:農薬(フェンチオン)による死亡例や,鉛中毒死・水銀などの重金属の蓄積などが起きています。

人馴れ:上に挙げた加害や事故は,長年の保護活動により,タンチョウが人馴れし,ヒトの活動領域内へ入り込んで暮らすようになったからに他なりません。最近ではタンチョウがスラリー(牛のし尿処理槽)に入り込んで保護されたり死亡する事故も多くなっています。

*低層湿原:上流や周辺部から流れ込む水分と養分により保たれている湿原で,主にヨシで構成されている。
**ボトルネック効果:一度個体数が減少(激減)するとその影響により遺伝的多様性が低いままであること。
***遺伝的多様性:個体群内においてさまざまな変異した遺伝子を保持すること、またはその度合を示す。

タンチョウの未来

それでは,こうした状況から抜け出し,これからどのようにツルと向き合っていけばよいのでしょう。

その向かうべき方向は,人に近づきすぎているタンチョウを,本来の生息環境で過ごすように,つまり人間の活動域からなるべく離すようにすることです。人馴れさせないようにしながら,より自然の環境で,野生の暮らしをさせることです。

ただし,それには,いくつかの前提が必要です。つまり,まずこれ以上の湿地の消失を抑制しなくてはなりません。それが第1です。次に,集中化しているツルを分散させなくてはなりません。が,そのために前もって繁殖と越冬の分散先を確保しておかなくては,先に進みません。これには,行政的措置が大きな力となるでしょう。
 
いまのところ,分散可能な繁殖地環境としては,オホ−ツク海岸沿いの湖沼や湿地群,道北稚内近くの大沼周辺やサロベツ原野,道央の勇払原野に残るウトナイ湖をはじめとする湖沼や湿地,その他が挙げられます。しかし,かつてあった北海道の湿地は,現在3分の1(1997年の計算で約7万f)にまで減少していますから,これを増やすことや今残っている湿地の条件を改善すること(自然再生)も必要です。

さて,分散できる環境を人が確保したとしても,相手は生き物です。そこへ思惑通り移動してくれるでしょうか。一つの技術的方法は,現在行っている給餌方法や給餌量の見直しをして,分散を促がすように制御することです。場合によっては,ツルを誘導したり,個体を移すといった,人為的分散方法をとらなくてはならないかもしれません。

日本におけるタンチョウの興亡は,結局人の手によるものです。タンチョウを危機的状況へ追い込んだ人間の責務として,私たちは,これからのタンチョウの生存にとり,間違いのないビジョンを持ち,施策の着実な実行を欠いてはならないと考えます。

タンチョウ保護研究グループタンチョウ保護研究グループ

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